北九州市障害者地域生活支援センター 佐藤 みずほ 先生
H17年2月掲載
一般の人たち(患者さん本人や家族も含めて)に「うつ病とはどんな状態だと思いますか?」と質問してみると、ほとんどの人が「いつも暗い顔をしていてほとんど何も言わず、何もしない状態でじっと隅に座っているか、寝たきりになっている状態」と答えることが多いと思います。そう考えると、お医者さんからうつ病と聞かされた家族の反応が、「そんな馬鹿な。うちはそんな家系じゃない」と気色ばんだり、「この子は怠けているだけでうつ病なんかじゃない」と弁解したりと、あまり肯定的にうけとれないのはある意味納得のいくことかもしれません。
うつ病には軽度から重度まで、また興奮を示して一般の人にはとてもうつ病とは思われない状態までいろいろありますし、にわかには信じられないというのが本音なのでしょう。
「うつ病」の方への対応と聞くと、私にはある意味とても申し訳ない過去があります。それは母のこと。高校生の頃、痴呆状態の姑(祖母)をある意味壮絶な介護の末に看取り、母はその後うつ状態となりしばし加療したことがあります。今風な診断をつけるとすれば、「荷おろしうつ病」(心血を注いだ大仕事をやり遂げた後にもうつ病が生じることがある)とでもいわれるのかもしれません。その時も、母はそれなりに家事や法要関係などをこなしており、周囲はなかなか気づきませんでした。
その途上の中で、私は何気なくあけた便箋に書かれた、母の遺書(正確には多分それに類するもの)を眼にすることになりました。「生きているのが辛い、生きていたくない・・」というようなことが綿々と書いてあった記憶がおぼろにあります。その時、私は涙ながらに「ただ死なないで、生きていてちょうだい」と何回も何回も書き連ねた記憶しかない・・・、拙いものですね。ただ驚いて、どうしていいかわからなかった、というのが本音でした。父やその時進学していた姉にも、そのことを伝えた記憶もないし、そのことを口にすると余計に何かを壊してしまいそうで面と向かって母とそのことを話した記憶もありません。
しかし、心臓病の既往がいわれ、「私は60年しか生きられない」と公言していた母が、80歳を過ぎてもなお健在でいることは精神科の治療が奏効したことの証でしょう。
さて、これを教訓に「今」できる対応を考えてみたいと思います。
一番気づいていいはずの家族すら気づかなかった、という現実。誰でもがかかりうる病気だし、「脳神経におきた風邪のようなもの」状態は程度の差こそあれ必ず治る病気であることを理解すること。副作用の問題もあるが、薬物による治療が必要であるし有効であることを理解すること。30年近い前は、まだまだうつ病の社会的認知も含めインフォームドコンセント自体がさほど重要視されていなかった時代ではあったと思うし、父への説明はあったかもしれませんが、私は母の治療の実際すらほとんど知りません。でも今は、お医者さんの姿勢も当時とは格段に違うはずですし、いい関係の中での治療を受けていきたいものですね。
まずは心身の充分な休養を保障すること。私の言葉はある意味「励まし」の言葉、「励ましは厳禁!!」という場合の「励まし」とは、おそらくは身体的な要因を無視し、うつ病を病気とみなさないでいわゆる“精神主義的”に激励することでしょう。「そのようなスランプは誰にでもある、負けるな」「気力の問題だよ」とか「自分に負けないで強くなって欲しい」「このまま何もできなくてどうするの、私たちはあなただけが頼りなのよ」「君がいなければ会社はどうなるのだ、しっかりしてもらわなければ困るよ」・・・。激励はただでさえ懸命に頑張ろうとしている病気の実情にそぐわず、むしろ本人に、「早くよくならなければ・・・」という焦りをもたらすことにしかならないし、最悪「自殺」という方向への舵取りをさせてしまうことにもなりかねないことを理解すべきです。
まずは気を使わなくていい場所でひたすらだらだらゴロゴロ、「まな板の上のコイ」になることを勧めるのが最善の策といえるでしょう。
私はその時動転し、どう対応していいのか困惑・・・、最悪ですね。今ならもう少し余裕を持っての対応ができるかも。周囲がまずどっしりと構えることでしょう。何といっても当事者よりも周囲は健康なのですから・・・。
本人は「すまない」の気持ちで充満。ともすると、「○○さんにすまない、気を使ってもらって」と言ったとしても、「気にせずゆっくり養生して、よくなってからまたどうすればいいのか考えたらいいのだから」と、特に重大な決定は先延ばしにすることも大切です。
今なら素直に話が聴けるかもしれないし、そして見守れそうな気がします。大変な家事の分担も少しはやれそうなので・・・。
私は今、その立場にいてご本人やご家族などからの相談をうける立場にいます。支援者は、双方の思いの通訳・翻訳家。三角関係のほうがうまくいくキャッチボールもあるのです。
過去の反省も含めて書かせていただきました。
うつ病の発病率は軽症のものまで含めると10人中1~2人にもなる、といわれるほどポピュラーな病気になってきました。風邪にも軽い鼻かぜから、命にも関わる肺炎まで様々。「こころの風邪ひき」も同じことで、まずは暖かくしてゆっくり休養すること、そして周囲もドッシリと構えること、それが基本かなぁ・・と思うこの頃です。