九州労災病院 ストレス科 金澤 耕介
H15年7月掲載
近ごろ、若者の中で学校を卒業して進学も就職もしない人、いわゆる無業者が増えています。就職しても長続きしなかったり、短期間のアルバイトを転々としたり(フリーター)、また派遣労働者として働く人も多いようです。この現象は自分の夢を実現するまでの腰掛的な状態、或いは束縛を嫌う、自立への不安などという若者心理から説明されがちです。
しかし実際には、望んで無業者やフリーターになっている人ばかりではないようです。不景気で企業は新規採用を抑え、正社員としての働き口自体が減っています。働き口が見つからず、やむを得ずフリーターになっている人も少なくありません(やむを得ず型=フリーターの4割くらい)。
経済の変化に伴い企業の求人や雇用制度も大きく様変わりしています。新卒採用と企業内での育成から即戦力、中途採用に変わりつつあり、社員の評価も年功序列制から能力主義、業績主義のウェイトが大きくなっています。実際に企業内での教育研修の機会は徐々に減る傾向にあり、個々人に能力向上の努力が求められています。
この様な制度は個人の努力や業績が正当に評価される利点もありますが、一方で競争と待遇の格差が強調されるシビアな職場にもなります。新卒者の離職率が高くなる背景には、この様な状況も存在しているでしょう。
フリーターや派遣社員の増加は正社員、常勤などにこだわらぬ、働き方の多様化と言う見方でも捉えられます。実際これらの働き方は労働者、企業双方にとって労働時間や契約面での融通性が高く便利です。しかし多様な働き方が存在する事とそれらを自由に取捨選択できるかは別です。たとえば正社員への転職では資格やキャリアが重視されます。フリーターは仕事を通じてのキャリア形成では不利ですので、なかなか正社員になれない傾向があるようです。
このような状況から若い働き手が減っています。働き手が減るという事は税金や年金といった社会制度を担う人が減るわけですし、職場から若い力が失われる事は職場全体の活力を削ぐ事になり大きな社会問題です。
一方、若者にとっても働く機会が奪われる事は知識や技術を得たり、自分の能力を十分に発揮する機会を損なわれる事になります。アルバイトの低い収入では経済的に親に依存せざるを得ず、社会的自立が難しくなります。注意が必要なのは、この問題が若者の仕事に対する意識に起因するものばかりではない事です。
働くことについては昔から色々な捉えられ方がされて来ました。労働は単に生活の手段に過ぎず人を束縛する必要悪である、あるいは労働は善であり仕事に励む事により精神的修養も図れるという事まで幅広い考え方があります。
それらの是非はさておき、職業や働く事自体、職場が学習や成長の場であり、社会の中での自分の位置を定める手段の一つである事は否定できません。何事もバランスが重要で、働きすぎは良くありませんが、働く場が無いこともメンタルヘルス上の大きな問題です。
この6月に政府から「若者自立・挑戦プラン」として若者の就業や起業を支援する総合対策が出され、経団連と日本商議所も共同で「若年者を中心とする雇用促進・人材育成に関する共同提言」なるものを発表しました。就職の情報提供や若者の起業を支援したり、学生の就業体験を企業が受け入れる内容ですが、具体的な効果がすぐに得られるものではありません。
まずはなにより大人たちがこの問題に関心をもち、身近なところからの支援を行うことが重要だと考えられます。