メイン画像へジャンプ
ここから本文です

こころのメッセージ


メンタルヘルスについて~ひとはなぜこころの病気になるのか~

保健福祉局総合保健福祉センター 精神保健福祉センター

H16年8月掲載

はじめに

 人がこころの病で悩むのは、からだの病気と同じように健康な時に比べて、心の抵抗力が低下した時期であろうと思われます。したがって、こころの病気も便宜的にはストレス反応という概念を用いるのが理解しやすいと思います。

 ストレスというのは「心身の負荷になる刺激や出来事、状況による個体内部に生じる緊張状態」とされています。そのストレスを生じるような外部からの刺激をストレッサーということもありますが、それ自体をストレスと呼ぶこともあります。それは量的に過剰な状態、あるいは少ない状態、有益なもの、有害なものもありますが、一般的には有害なものを指すことが多いようです。

 もしストレスがない世界があったらどんなことが起こるでしょうか?何も進歩がない、刺激がない、生きがいのない世の中になるでしょう。つまり適度なストレスは必要なものです。しかし、それが過剰なものとなると体には胃潰瘍、過敏性大腸炎、喘息、極端な場合は心筋梗塞などの身体化、すなわち心身症を起こすことになります。人によっては過剰飲酒からアルコール依存症になる人、パチンコ依存になる人、収入以上のローンをしてしまう人、遁走(フーグ)といって、自分では気づかない内にどこか遠くに行ってしまい、全ての経験を忘れてしまう生活史健忘を起こすなどの解離状態を呈する人もいます。また不安症状や抑うつ状態、うつ病など精神化を示す人もいます。

 このようにストレス反応によって様々な状態を起こす可能性があります。そしてストレス要因によって、不安や抑うつ状態などのいわば精神症状を呈する人はある意味で素直な人ということもできます。一方、体に病気が起こる心身症を起こす人はストレスへの気づきが悪い人と考えられており、このような人を失感情症ともいっています。いずれにしても体とこころとは密接に関連しており、過剰なストレスが負担となった反応が、身体面にも精神面にも起こる可能性があります。

img0612_1

自殺者の増加

 平成10年における我が国の自殺者数は、その前年よりもおよそ1万人も増えて、3万人を越えてしまいました。この数字はこの6年間変わらず、交通事故のおよそ4倍を示しています。自殺者の多くは健康問題に関連した悩みが原因なっていますが、最近の傾向としては生活・経済問題を要因とした自殺者の増加が特徴とされています。

 確かに失業率が4.2%から4.9%に増えた時期に自殺者は1万人増加しており、特に40歳から50歳代の働き盛りの人が4割を占めていること、さらに男性が70%以上であることから、自殺防止対策は我が国の経済や政治の問題としても考察されなければなりません。そして自殺者の多くが精神疾患、特にうつ病、アルコール依存症であることが指摘されており、政府の自殺防止対策有識者会議でもうつ病対策を自殺防止対策の第一位に挙げています。

ストレスを増加させている要因

 我が国の経済状況は長い不況が続いており、さらに産業構造も大きく変化してきています。特にサービス業を中心とした第3次産業に従事する人が増え、業績評価が困難であるにもかかわらず、成果主義になっていること、さらに年功序列制の地位や給与体系の崩壊が起こり、几帳面で他者配慮的な真面目な人にとっては生活がしにくい世の中になっています。

 またIT機器の導入、男女共同参画による業務の分担や核家族化による教育や家事の分担の問題、高齢化社会への対応など、ストレスが高まる要因は増え続けています。このような社会の変化を考えると、残念ながらこころの病はこれからも増え続けると思われます。

おわりに

 社会の変革にいかに適応するのか、社会の中でどのような人間関係を築いていくかがこれからの私たちに課せられた大きな課題だといえます。特に勤労者においては、こころの悩みを抱いていても、周囲の人に自分の弱みを悟られまいとしたり、企業の健康管理室を訪問して相談できるような雰囲気がなかったりするのが実情です。職場や学校などでも気軽にこころの問題について相談できる体制づくりが必要であると思います。やはりこころの問題については、守秘義務をいかに遵守するか、その保証を十分することで、心療内科や精神科などの専門医への受療率をあげることができると思われます。

 われわれが先に、精神科病院を受療中に自殺した人を調査した結果によれば、精神科を受療していながら自殺した人の性差には全く差がありませんでした。したがって、男性で専門医を受診しないまま自殺している人が相当いるのではないかと思われます。したがって、働き盛りの、特に男性の精神的不調をいかに早期発見するかが自殺予防の具体的な方策となると思われます。

 こころの病を予防するには日頃からそれぞれの個人にあったストレス解消法を持つことや、十分な休養をとる方法を考えていく必要があると思われます。

  • 一覧へ戻る