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こころのメッセージ


いのちの電話を通した希死者の心理について~中高年男性のケース~

北九州いのちの電話 スーパーバイザー会 会長 佐藤 信茂

H16年2月掲載

 北九州いのちの電話に昨年(2003年)1年間にかかって来た総受信件数は34,985件、これには無言電話も含まれていますので、相談電話として成立した相談件数は28,025件、一昨年(2002年)にくらべて、総受信件数が12%増し、相談件数は20%増加しています。

 相談電話のうち、自殺を訴えた件数は、男性474件、女性635件、合計1,109件、一昨年にくらべて男性は96%増しと倍増に近く、女性は38%増し、合計では58%増加となっています。

 男性の自殺を訴えた件数の年代別割合は、多い方から30代 30.6%、20代 19.6%、40代 15.4%、50代 14.3%、10代 1.5%、70代 1.3%、60代 0.8%、年齢不明16.5%となっていて、中高年男性から自殺を訴えてくる割合は、総件数の約3分の1となっています。

 男性の自殺を訴えた件数の問題別割合をみますと、人生 55.7%、保健医療 31.0%、対人 5.1%、家族 2.5%、男女 2.1%…となっていますが、中高年男性(40歳以上)でも、人生60.3%、保健医療 29.8%、家族 4.6%、対人 2.0%、男女 1.3%と、家族と対人の順序が入れ替わっているだけで、ほとんど同じ傾向を示しています。

 中高年男性の人生問題では「思ってもみなかった不得意分野に配置転換され、一人になると死にたくなる」「リストラで失職したが、なかなか再就職できない。家のローンのことなど考えると死にたくなる」など、リストラがらみの訴えが多く見られます。そのほか「交通事故で腰を痛めて内勤になったが、営業でバリバリ働いていた時の達成感がなくて、白い目で見られているようで死にたい」「障害者の両親の面倒を、10年以上看ているが、将来に希望がなく死にたい」「零細企業を経営しているが、取引先が倒産し、多額の債務を回収できず、銀行も相手にしてくれず、死ぬしかない」など、自分の不運を嘆いてかけてくるケースもあります。

 次に多い保健医療問題では「対人恐怖症で生きていくのが辛く、死にたい」「統合失調症で入院し、20年勤めた会社も辞め、妻子とも別れて、死ぬしかない」「1年前からうつ病で病院に通っているが、最近薬が効かなくなった。自営業だが今の状況から逃げ出したくて、死にたい」「うつ病で入院、退院後復職したが、同僚も妻も思いやりがなく、死にたくなった」「うつ病で3年あまり治療しているが、会社の同僚の偏見に苦しみ、家でも妻が自分の病気を理解してくれず、自殺したい」「うつ病を繰り返し、仕事も家族も失い、病気に振り回されているようで死にたい」など、心の病気で自殺を訴えてくるものが大部分で、とくにうつ病にかかっている人からの訴えが多く見られます。

 家族の問題では「両親の介護に疲れ果てて、死にたくなった」「母が痴呆で施設に入ってしまって、一人でいても意味がなく、死んでしまった方が楽な気がする」というような、両親の介護疲れから死を考えるようになったり「家族のことを考えて一生懸命頑張って来たのに、妻がギャンブル依存症で多額の借金ができて、世間から隠れるように暮らさなければならなくなって、何のために頑張ったのかと生きる気力を無くした」「うつ病で入院したが、よくなって退院し、仕事にも復帰した矢先に、妻から別れ話をされ、ショックで死にたい」など、何らかの原因で家庭が崩壊しかけて、死にたくなったと訴えてくるケースもあります。

 このほか中高年の男性からは「妻を亡くして全くの一人、この先何もすることがなく、生きていてもしようがない」「会社ではリストラ、家では離婚話、生きる気力を失った」など、孤立感を訴えるものが多く、身につまされる思いがします。

 ここ数年の自殺統計でも、中高年男性にピークが見られるようなので、せめて「いのちの電話」にかけて来ることで、死ぬことだけは思いとどまって欲しいと願うばかりです。

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