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こころのメッセージ


マインドフルネス~なぜ人は苦しむのか?どうすれば苦しみから解放されるのか~

福岡県・市スクールカウンセラー
吉村 仁

H28年6月掲載

最近、こころと体の健康に関する話題などの中でちらほらと聞かれるようになってきた「マインドフルネス」というものをご存知でしょうか?

このマインドフルネス、ひとことで、「心身、そして人生の充実の技法」と言えば少しイメージがつかみやすいでしょうか。具体的には、うつの再発予防、ガンの痛みの緩和、皮膚疾患による苦痛の減少、依存症(タバコ、アルコール、薬物、ギャンブルなど)の治療、幸福感の増加、不安の減少、睡眠の改善、注意力や集中力の向上、心の安定や落ち着き、優しさや思いやりが高まる、などの効果がこれまでの研究で明らかになっています。

また、自殺願望のある人がマインドフルネスの実践を続けたところ、「悪い記憶」ばかりだと思っていた過去の自分の人生の中に、それ以外の「良い記憶」があることにもだんだんと気づいていき、それとともに自殺願望が減少した、というような研究もあります。

さらに最近ではグーグル社やフェイスブック社など、主にアメリカのIT関連の有名な企業で職員研修の主要なひとつとしてこのマインドフルネスが用いられ、社員の心身のメンテナンスや仕事のパフォーマンスの向上に役立てられています。

このようにマインドフルネスは、心身が健康な人にとってもそうではない人にとっても役に立つ、ある種の「万能薬」のように世の中に受け止められ、静かながらもブームを迎えているのですが、果たしてそんな都合の良い方法が本当にあるのでしょうか。

実際のところ、マインドフルネスはそのやり方を身につけさえすれば自分ひとりでもできる、こころと体のセルフケアの技法です。

マインドフルネスのエクササイズを少しでもしてみればおそらくすべての人が体験することですが、基本の瞑想すなわち「自然な呼吸に意識を向ける」ということをまず行ってみると、こころの中に次から次へと考えごとが浮かんできては消える、あるいはいつの間にかその考えごとにとりとめもなく自動的に巻き込まれてしまっている、ということに気づきます。こころがそのように呼吸から離れては戻し、離れては戻す、ということを続け、しだいにこころが呼吸に留まっている時間を長く安定したものにしていきます。

実を言えば心に浮かぶ「考えごと」は全て、過去、未来、あるいは別の場所の出来事や記憶、想像です。それに対して呼吸とその感覚はまぎれもなく「今、ここ」で生じている、現実の生の出来事です。自分の身体という場で繰り広げられているさまざまな現象です。

そしてそれは「いのち」があるゆえに生じ、滅しているということもできます。呼吸は命の活動そのものでもあり、「息」と「生きる」という言葉が似ているのも、もしかしたらそのような背景があってのことかもしれません。

また、別の瞑想「体の感覚に注意を向ける瞑想」に慣れてくると、こころの苦しみが起こり始めるときのほんの小さな「火種」くらいの状態でも素早く気づけるようになり、以前は気づかないうちに「火だるま」のように巻き込まれていたことでも、そうなってしまわずに、ただ消えゆくさまを観察できるようになります。

人生はさまざまな困難、苦しみや悩みに満ちています。マインドフルネスでは、苦しみも喜びも、本来は自然の摂理に従って変化し、やがては去ってゆくものである、という風に考えます。「重石」のように、あるいは粘着物のようにくっついて離れないように感じられる苦しみも、実は生成と消滅を繰り返しており、その様子を観察することを可能にしてくれます。すなわち、「苦しみのただ中にいる人」から「苦しみを観る人」へと変わっていくのです。

マインドフルネスの瞑想を続けていくと次第に、心の中の苦しみを、呼吸や体の感覚の変化を通じて感じられるようになります。心身がどんな状態であろうとも「平静に、ただ静かにあらゆる現象を観察する」ということができるようになり、これまでは大きく反応してきたさまざまなものごとに対する反応が、「ありのままの刺激に対する必要最小限の反応」へと変化していき、苦痛が少しずつ減っていく、という理解です。

人生は苦しみに満ちています。マインドフルネスが広がるきっかけの一つとなった、有名な本は、邦題では『マインドフルネスストレス低減法』となっていますが、その原題は ”Full Catastrophe Living” (筆者訳:災難に満ちた人生)です。逃げようとすればするほど追いかけてくる犬と同じように、目を背け、逃れよう逃れようとすればするほど苦しみはどこまでも追いかけてきます。しかし、マインドフルネスには、そのような現実を一旦はしっかりと認めて受け容れた上で、その「災難」にしっかりと向き合って克服する術が詰まっています。

参考図書

マインドフルネスストレス低減法(北大路書房出版)
ジョン・カバットジン(著) 春木 豊(訳)

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