三重県立こころの医療センター
長 徹二
H28年5月掲載
アルコールや薬物は脳の機能への影響が大きいことが知られています。
みなさまはアルコール・薬物依存(症)って聞いたことがありますか?
どんなイメージを持っていますか?
普段の会話に出てくる「依存」とは、辞書には「他のものにたよって成立・存在すること」と説明されています。例えば、「運転は息子に依存している」、「冬はこたつに依存しているの♪」といった表現です。
しかし、医学で扱う「依存」とはこの用語と同じ意味ではありません。残念なことに、医療関係者でさえ「依存しすぎる人が依存症(つまり過剰な依存≒依存症)」と誤解している方がいるくらいです。
「依存症」の診断基準をかんたんにまとめると、「ある物質が生活の中心となり、その使用をコントロールできない脳疾患」となります。使用直後だけではなく、その後の生活においても使用する人やその周囲の人の心身や生活に支障をきたす場合があり、抑うつや自殺との関連も明らかになっています。
世界保健機関(WHO)の発表では、気分障害(うつ病・躁うつ病など)に次いで、自死で亡くなられた方に認められた疾患でした。
アルコール・薬物に関する問題はとかく自己責任の問題として扱われがちですが、使用に至らざるを得ない心理的な事情も多く、生育歴上のさまざまな生きづらさを抱えている人が少なくありません。そのような状況で生活するがゆえの心理的な孤立や対人不信を背景に、アルコールや薬物に頼ったストレス対処行動を取ることが病態の本質ではないかという仮説もあり、我々の研究でも部分的ではありますが、この仮説を支持しています。
対応の原則について、過去の記事(「こころの応急対応 (メンタルヘルス・ファーストエイド)の紹介」、「不安の問題に関するメンタルヘルス・ファーストエイド」 )を参照して下さるとよいのですが、「り・は・あ・さ・る」に沿ったかかわりを推奨しています(これは、支援に必要な要素をまとめたものであり、必ずしも実施する順番を示しているのではありません)。対応するにあたり、アルコールや薬物の使用にまつわる心理について理解することが重要であると強調されています。つまり、それらをどうして使用するに至り、どうして使用を継続し、どうして問題が生じているにもかかわらずやめることができないのか、について想像・理解してかかわることが重要になります。
アルコール・薬物使用の問題を抱えている場合、ほとんどの人がそのことを否定し、認めない傾向があります。ですので、その人の状態をよく考え、その人と話をするタイミングを工夫し、正直に、安全な環境で話をする必要があります。この際に、偏った判断を持たず、非難や攻撃は控えて、心配していることや協力する準備があることを丁寧に伝えましょう。その会話の中で、アルコール・薬物の使用によって生活に支障が生じていると判断した場合には、専門治療への相談を勧めましょう。
アルコール・薬物の使用について自分から話すことはなかなか話しにくいことが多いでしょう。みなさまは話しづらい内容はどこで誰にお話しされますか?
このようなイメージが浮かべるとわかりやすいでしょう。つまり、安心・安全感を感じてもらえる場所や雰囲気に配慮しながら、話に耳を傾けることが大切です。重要なのは、自身の思っていることを話すことでストレスが軽減できることを実感してもらうことであり、困ったときに助けを求めやすくなることです。同時に、話したくないことは無理して話さなくてもよいことも伝える必要があります。
また、自尊感情(自分のことを大切に思えたり、価値があると感じること)が低下していることが多いため、対立したり、説教したりするのではなく、尊敬の念を持ってかかわることが重要であり、感謝を示すとさらに効果的です。
なるべく具体的な情報を提供し、相談機関などの電話番号や住所、信頼できるウェブサイトを伝えましょう。話を聞く余裕がない人の場合には、無理に提供することは避けて、「その気になったらいつでもお伝えします」と丁寧に伝えましょう。
アルコール・薬物使用に関する問題を抱える人は、医療などのサポートを受けずにいることが多いです。その人が専門家のサポートを前向きに求めるならば、それぞれの地域での情報を与えるべきです。サポートを受けることに抵抗感が強いようであれば、無理に勧めることは避けて、「気がかわったらいつでも対応できます」と丁寧に伝えましょう。
アルコール・薬物を使用していない協力的な人と時間を過ごすことを勧めていきます。また、回復しつつある人々が参加するセルフヘルプ・グループもあります(たとえば、断酒会やアルコホーリックス・アノニマス(AA)、ナルコティクスアノニマス(NA)など)。そして、断酒会やダルクの家族会、 アラノン(Al-Anon)など、アルコール・薬物に関連する問題を抱える人たちの家族に対するサポート・グループもあります。
アルコール・薬物に関する問題を抱える人を自ら健康を害する人ととらえて、自己責任論の観点から自業自得であると正論を振りかざすのではなく、コントロールを失う脳の機能変化や使用し続けなければやっていられない心理的な生きづらさを理解して、「り・は・あ・さ・る」でかかわることを意識しましょう。