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こころのメッセージ


不安の問題に関するメンタルヘルス・ファーストエイド

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所 成人精神保健研究部
災害等支援研究室長 鈴木友理子

H28年4月掲載

はじめに

不安は誰でも日常的に感じるものです。それは、ちょっと落ち着かない程度から、パニック発作のように自分でコントロールがつかない程度まで様々です。誰もが感じる不安と、専門治療が必要な不安障害をはっきりとした一線で区別することはできません。ただし、その不安を抱えた人に接し、その不安が重症で、長く続き、仕事や人間関係等を妨げるような場合には、専門家の支援を受けることを提案してみましょう。メンタルヘルス・ファーストエイドでは、このような場面で、どのように対応をすれば良いのかを学びます。そして応急対応の原則を「り・は・あ・さ・る」にまとめています。これは、支援に必要な要素をまとめたものであり、必ずしも実施する順番を示しているのではないことに注意しましょう。

ファーストエイドの対応法

「り:声をかけ、リスクを評価し、支援をしましょう」

まず、相手が不安の問題を抱えているような場合、落ち着いて話ができるような場所と時を選んで、その人に声をかけてみましょう。こころの問題を話しあう際には、常にプライバシーと秘密を尊重することが重要です。

不安の反応は様々な形で現れます。身体面では、胸がどきどきする、息苦しく感じる、などいろいろな症状がありますが、つまり交感神経系が昂進しているということで、様々な体の不調として現れます。なかには、パニック発作のように、心臓発作と似て見えることもありますので、よく分からない場合には、まずは救急医療の受診を勧めましょう。

心理面では、過度に心配したり怖がったりと、これも多様です。特に理由もなく不安に感じる場合もあれば、過去のトラウマ体験が関係していることもあります。行動面では、特定の状況を避けたり、何度も確認したり、手を洗うといった強迫行為の形で現れることもあります。

不安の症状があまりにも多様であり、戸惑ってしまうかもしれません。しかし、応急対応者に求められるのは、当座の適切な対応であり、正確に診断を下すことではありません。その人の不安が通常よりも重い、不安に長期間悩まされる、仕事や人間関係といった日常生活に支障が生じている場合には、専門家への相談を勧めましょう。

「は:決めつけず、批判せずに話(はなし)を聞きましょう」

支援の原則はよく話を聞くことです。共感的な態度で臨み、なるべく遮らずに、そして理解を確認しながら話を聞きましょう。また座る位置やアイコンタクトにも注意して話を聞きましょう。どのように感じているかその状況がどの位続いているかなどを尋ね、評価の手がかりを得ながらも、まずは自分の価値を脇において、相手に寄り添いましょう。

「あ:安心(あんしん)につながる支援と情報を提供しましょう」

話をよく聞いた後は、相手をねぎらい、そして安心につながるような具体的な支援と情報提供をしましょう。状況に理解を示し情緒的に支えたり、もし精神科的な問題がありそうな場合には、正確な情報を提供しましょう。この際、精神疾患と決めつけるのではなく、それは医学的な問題の可能性があり、もしそうなら効果的な治療や支援を受けられること、そして早期に治療や支援を得ることで、回復の可能性が高まるといったメッセージとなるようにしましょう。また、その人の回復につながるような実用的な支援を提供しましょう。

「さ:専門家のサポートを受けるよう勧めましょう」

精神科の問題への専門治療としては、状態に応じて、心理療法や薬物療法が行われます。心理療法としては、認知行動療法(CBT)、曝露療法などが行われます。不安障害に対しては心理療法の治療効果が認められていますが、地域によっては実施できる専門家がいないこともあるので、薬物療法も使われます。薬物療法も、特定の不安障害について、その治療効果の評価は定まっています。治療の選択については、主治医とよく話しあうことが必要です。

「る:その他のヘルプやセルフヘルプ等のサポートを勧めましょう」

専門家につなげるだけでなく、その人自身や周りの人でできることも一緒に考えてみましょう。友達や家族、サポートグループは重要な存在です。また、認知行動療法(CBT)に基づいた対応法は、自己学習本やインターネットでも学ぶことができます。不安障害の治療として、不安の対象を避けるよりも、直面することで回復を促す方法もあります。人ごみが苦手な人に「人ごみに行かなければいい」といったアドバイスは必ずしもその人の回復につながらないこともあることに注意しましょう。

また、ヨガ、鍼、アロマセラピー、リラクゼーションなどの、セルフヘルプの方法は、精神科の専門家と話し合い、他の治療法と併せて使うとよいでしょう。これらセルフヘルプの治療的効果についての評価は定まっていないので、無理して行うべきではないですが、自分がリラックスできる方法は、自分らしさの回復につながるでしょう。

参考文献

こころの応急処置マニュアル: Mental Health First Aid Japan. http://mhfa.jp

Reavley N, et al. A guide to what works for anxiety. Beyondblue. www.beyondble.org.au

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