ひきこもり当事者の立場からKさん
H28年4月掲載
私は、両親の高い理想像の中で、ずっと自分自身の感情や、自己否定して生きてきました。
いつも褒められ、父親のお前ならできると言う言葉と、母親のさすが私の子と言う言葉をかけてくれる両親で、私も努力し、小学校低学年としても成績も優秀で理想の息子だったと思います。
しかし、この時から、「自分自身」がどこかにいってしまいました。
両親の言われたように生活し、毎週の習い事は習字、水泳、ピアノ、ヴァイオリン、空手、塾、野球。「自分」がやりたかった事か「両親の理想の息子」がやりたかったことなのか正直わかりません。
ある日、母親と担任の先生がトラブルになりました。こんなに多い習い事をさせるのは良くないと、先生が両親へ提言したのです。教師だった母親は自分の教育方針を批判されたと思い、激怒しました。母親からは毎日「あの先生は悪い先生なんだよ」と先生の批判を聞かされていました。私が学校に行くと家族が怒ってばかりなので、わけがわからなくなりました。
次第に、学校に行かなくなり、小学校3年生に進級する春休みに両親の理想の息子は壊れてしまいました。両親はお互いにお前のせいだと、お互いの批判ばかり私に言ってました。
その父親と母親から生まれてきたのにお互いを否定しあって、私自身まで否定されてる気がしていました。
今まで一つだった理想の息子が、父親と母親の育て方の方針が別々のものになり、私はその二つを求められるようになりました。
それからは、理想の息子が肯定されることはあっても、本当の自分が肯定される事がなく、生きていてもずっと心が空っぽのような状態で生活していました。
両親は、「学校いってみたら?」とか、「こんな仕事が向いてる」とか、必死になって私の事を考えてくれていましたが、逆に私には重荷になっていました。
ずっと両親の想いに沿って生きてきた私は「両親の望んだ事=理想の息子」という方程式ができてしまい、過去の失敗を恐れ両親の良いと思う物がすべて受け付けなくなっており、いつもその事に苦しんでいました。
成人し、社会復帰を果たそうとアルバイトをしたり、ひきこもりがちになったりを繰り返していました。
寝ようとすると襲ってくる、得体の知れない恐怖。それを消し去るように、疲れ果てるまで何かに没頭して泥のように眠る昼夜逆転の生活。
何をやっても実感が得られない気持ち。あの時こうすればよかったんじゃないかとか、過去の失敗が今現実に起こってるようにフラッシュバックしたりすることもありました。
自分を傷つけ続けて、ある日、自分のこの気持ちは何だろうと、インターネットで検索するようになって「機能不全家族」という言葉に行き当たりました。
自分の場合は「自分自身」を尊重されてなく、ずっと「親の理想の息子」として生きてきたんだと、最初に不登校になって20年近く経ってやっと気づきました。
親が子供にこう育って欲しいと想う気持ちはわかります。自分に子供ができたとしても、そういう気持ちは出るとおもいます。しかし、私の親はそういう気持ちが強すぎた。というだけです。
職場の人間関係でも、相手の求めてるものを完璧にこなさないといけない、とか、相手に求められるのが自分の存在意義だったり、他人を中心にずっと人間関係を築いてきた自分を見つけることができました。
それからというもの、家族間の問題の整理。自分自身の感情の整理。をずっと毎日のように繰り返しました。
これからも、両親が私に求めてきた「両親の理想の息子」は消える事がないと思います。今もたまに、今まで感じてきたような得体の知れない恐怖や不安が襲ってくることもあります。
今は、自分の感情の整理をし、自分自身を認めてあげれるという事ができるようになったので、不思議と怖さは消えてきてると思います。
その中で一番自分が救われた言葉は、「しょうがない」という言葉です。この言葉は不思議と自分を認めれる言葉だとおもいます。一見ネガティブなイメージですが、私はこの言葉が好きです。
「両親の期待に応えようと、頑張りすぎて疲れ果ててしまった・・・。自分がこうなってもしょうがない。」
「あのとき、仕事であんな失敗をした。まぁしょうがないよ。」
「高校中退で、学歴も職歴もない。いっぱい悩んだんだからしょうがない。」
こっからこっから。
それまでマイナスな感情が「しょうがない」で、片付けられてしまう。不思議とプラスに考えれる言葉だと思います。
ただ、親が子供に掛ける同じような意味合いの言葉では、「よくやってる」って言ったほうが喜ぶと思います。
昔の私の家族に何か言えるのなら、家族全員で話合い、夫婦の「価値観」を子供に求めるのではなく、子供がどう思うかきちんと聞いてあげて、ちゃんと家族の個人の「価値観」を尊重して欲しい。
同じような境遇で悩んでる人がいれば、本人の居場所を作ってあげて自分に向き合う時間を作ってあげて欲しい。親が想えば想うほど、子供は混乱し自分を殻に閉じこめてしまう場合もあると思います。
これからもずっと、「しょうがない」と自分に言い聞かせ。自分自身が一番の理解者だということを胸に生きて生きたいと思います。