八幡厚生病院 心身医学研究部長 医学博士 米良 貴嗣
H27年5月掲載
体格指数(Body mass index: BMI)という尺度が国際的には一般的です。
BMIは体重(kg)/身長(m)2で計算される値で22 kg/m2が標準値です。
身長158 cmの人であれば、標準体重は1.58×1.58×22となり、54.9 kgとなります(以下すべての計算は小数点第二位を四捨五入して表記)。
また、国際保健機関(WHO)は成人の正常下限をBMI 18.5 kg/m2としています。1.58×1.58×18.5となり、46.2 kgが正常下限の体重と言うことになります。
ただ、日本人は欧米人に比べて小柄であるため、もう少し低めであるという議論も存在しています。それをBMI 17.5~18 kg/m2程度と考えても、日本人の場合でも少なくとも43.7~44.9 kg未満は注意が必要でしょう。
また、我が国では以下のような低体重時の活動制限の指針が設けられています。
標準体重 |
身体状況 |
活動制限 |
55 %未満 |
内科的合併症の頻度が高い |
入院による栄養療法の絶対適応 |
55~65 % |
最低限の日常生活にも支障がある |
入院による栄養療法が適切 |
65~70 % |
軽労作の日常生活にも支障がある |
自宅療養が望ましい |
70~75 % |
軽労作の日常生活は可能 |
制限つき就学・就労の許可 |
75%以上 |
通常の日常生活は可能 |
就学・就労の許可 |
難病情報センターホームページより
標準体重の75 % (BMI 16.5 kg/m2に相当)未満は成長障害を生じ、骨粗鬆症を進行させますので、日常生活に制限が必要とされています。つまり、体育・運動系の部活や肉体的負担の大きい労働は禁止という制限付きの就学・就労許可ということになります。神経性やせ症の患者さんは過活動の方が多くて、周囲が止めないと登山をしたり、マラソンをしたり平気でしますので注意が必要です。
神経性やせ症の患者さんの死亡率は一般人口の5~10倍。
神経性過食症の患者さんの死亡率は一般人口を2~4倍。
① 身体的な危険
特に深刻な低体重状態では死亡率が一般人口の約30倍。
極端な絶食の継続や急激な体重減少、過度の排出行為、絶食後の急激な栄養摂取なども危険です。
② 精神的な危険
神経性やせ症の患者さんの自殺率は一般人口の約31倍。
神経性過食症の自殺率は一般人口の約7倍。
適切な治療によって神経性やせ症の患者さんは一般に3年くらいで約30 %が回復し、10年後までに50~60 %が回復すると言われています。残念なことに10年目までに10 %弱の方が亡くなると言われています。10年以上の経過については、16年目に84 %まで回復率が上昇するという報告もあります。
神経性過食症については1年で約30 %が回復し、10年で約70 %まで回復率が上昇するといわれています。
代表的なものは以下のようなものです。
骨粗鬆症:BMI 16.5 kg.m2未満の状態が持続することで進行。運動などの身体的負担でさらに進行。
早産:月経が回復しても早産の傾向があると言われています。
虫歯:嘔吐を繰り返すことで、胃酸で歯が痛みます。総入れ歯になることも。
下剤乱用症候群:下剤の乱用で正常な腸管機能が失われていきます。
“治る”ではなく、“回復”と考えるのは再発の危険があるからです。耐えられないストレスに曝されたりすると再発するかもしれません。患者さんによっては体重が回復しても通院治療を継続していく必要のある方がいます。
自分はダメだという思いに苦しんでいませんか?誰からも愛されていないと感じていませんか?学校や社会での生活が辛くないですか?
回復とは、あなたが自分を否定するような感情にとらわれることなく、生き生きと自分の能力や個性に見合った生活をしていくことです。
低栄養状態は、実は気分を落ち込ませたり、不安を強めたり、イライラを強めたり、こだわりを強めたり、思考力・判断力を低下させることがわかっています。
適切な食習慣と体重の回復によって気持ちが安定して、しっかりとした思考力・判断力が回復してきます。思考力が回復すると医師や心理士の話への理解が深まります。
健康な体重はBMI 18 kg/m2以上で月経が回復したあたりとなるでしょう。本当に回復した状態であれば、それがBMI 18 kg/m2だろうと19 kg/m2だろうと気に病むことは無くなって「まあ、いいや」と思えます。
薬物療法は補助的な役割でしかありません。
体重をうまくコントロールして低体重を維持できている時、表面上は情緒が安定していて「何も困っていることは無い」と言う患者さんが多く存在します。そういう患者さんの場合、心配して病院に連れて行くと逆に情緒不安定となり、病院にさえ行かなければ安定しているように見えます。しかし、その内面は低い自己評価に苦しんでいます。自殺で亡くなる患者さんが多いのです。
摂食障害は、食行動異常を生じやすい体質の方が、その生育歴の中で自己評価が傷つき、生きていく自信を失っている(逆に自信を得ようと無理をしていてそれが限界に達している)状態で発症すると考えられます。これが原因とか、この人が悪いのではと考えることは無益です。主治医やその他医療スタッフと家族が協力体制を維持して、どうサポートしていけば良いか考えることが大事です。
回復には時間がかかります。私は最低3年の時間を下さいと言うことが多いです。なかなか進展しない状態が続くこともあります。入院期間が2~3ヶ月以上になることが多く、何度も入院することが必要となる方もおられます。患者さん自身、自分がなかなか楽になれないことに焦っています。患者さんの言動に一喜一憂せず、月単位・年単位の視点で良くなった点を探してあげましょう。
患者さんは“低体重状態”という安住の地を奪われる不安から激しく抵抗して、時に主治医や医療機関への不信・不満を口にして通院を拒否したりします。そんな時はご家族だけでも相談に来て下さい。医療機関との関係が切れると袋小路です。ご家族だけでも医療機関とのつながりを保って頂ければ、ご家族の日々の関わりへの助言を行えますし、数年後きちんとした治療につながるケースも多いのです。