当事者の立場から
H27年4月掲載
私は2度のひきこもりの経験がありました。一度目は中学生時代。2度目は大学卒業の後。中学生時代のひきこもりは進級の関係で環境が変わったため何とか脱出することが出来ましたが、2度目は脱出の糸口がなかなか見えず、長期化して心に深い傷を残すことになりました。
大学を卒業してからの数年間は、色々と頑張りたい気持とどこか頑張りきれない自分に葛藤していました。周りの期待に応えようにも上手くいかず、気持ちは常に空回りして途方に暮れる毎日。挑戦することも失敗が続いて次第に外に出られなくなり、2度目のひきこもり状態になって行きました。
過去のトラウマから外が怖くて何処に行くことも出来ず、また、ひきこもった自分に負い目を感じて責め続けて、家にいても安心することはあまり無かったと思います。ひきこもった理由は、自分が弱くて頑張れないことが原因だと思っていたので、誰かに頼る事も出来ませんでした。決して出たく無いわけじゃない。けれども出ることが出来ない。2度目のひきこもりは期間も長かったため余裕も無く、心身共にボロボロで無様な自分を誰にも見られたくないと思っていました。
自分ひとりの力では本当にどうしようも無くなったときに、勇気を出して一歩踏み出した北九州市立精神保健福祉センターが主催する『ひきこもりを考える集い』で、偶然にも『北九州ひきこもり地域支援センター「すてっぷ」』のスタッフの方々と出会ったことが、私の人生の長いひきこもり生活を大きく変えることとなりました。
すてっぷに行き出して最初に感じたことは、もう一つの自分の家のような安心できる場所。家にいても決して安心することの出来なかった私にとって、願っても無かった居場所のような所でした。すてっぷにはフリースペース(話をしたり、本を読んだり自由に出来る空間)があり色々話をしたりするのですが、最初は順調ではなくひきこもっていた時間も長かったので、話す話題も無く苦労しました。しかし、幸いにも趣味が合う人がいたり、スタッフの方が促してくれたりする中で自分も意外と話せるのかもしれないと、徐々に小さな自信も生まれていきました。長いひきこもりの中でボロボロになっていた自分がどう見られているのかはとても心配していましたが、皆普通に接してくれるので外に出るのがちょっとだけ楽になったと思います。そこには優しい人も多くて何かと嬉しさを覚えました。
毎回行くのがただただ楽しくて、次の回がとても待ち遠しかったです。すてっぷ関連の別のフリースペースもあり、そこに参加したり、イベント事に参加してみたりと、自分がひきこもっていたことも忘れる程に楽しい時間でした。馴染めるまでは時間がかかりましたが、様々な人との出会いや経験を通して元気も出てきたと思います。その中で、形は違えども生きづらさを抱えている人々と話すことや、その方の体験を聞くことは、辛かった自分のひきこもりを見つめ直すきっかけになりました。
スタッフの方は相談にも乗ってくれ、何かが具体的に変わるわけではないけれど、雑談のように話せることがひきこもり状態を解決する方向へ繋がっていきました。ひきこもっていたその時間の中で培った悩みや辛さ、人生の中で抱え込んできた苦しさを吐き出して振り返る事が出来た事は、一人だけでは出来なかった自分を癒す時間となったと思います。進んだかの様に見えてもまた戻ってしまったりと何度も行ったり来たりしていましたが、決して急かすことなく見捨てず共に歩んでくれたので、自分のペースで進む事が出来ました。
私がひきこもっていた当時は「過去」しか見えず、毎日がとても辛い日々でしたが、時間をかけて自分を癒せた結果、「今」が少しだけ見えるようになってきた気がします。一人でいる時間が意外と好きだからあまり出たくないということも、これも自分の一つなのだと許せるようになってきました。
すてっぷとの係わりの中で私は、人生の中であまり感じたことが無かった、幸せで大切な時間を過ごせたと思います。この時間は私にとって、当時どうしても行くことの出来なかった中学生時代を別の形で過ごしていたような気がしています。最初にひきこもってしまった当時にすてっぷのような場所が無かったのは残念ですが、今はその場所がある事をとても嬉しく思えます。
辛い時は相談してもいい、誰かに頼ってもいい。苦しさを吐き出した時、救ってくれる人は意外と居るかもしれません。ひきこもる事は決して悪いことではないし、ただ偶々そうなってしまって、それ以外の選択が出来なかっただけだと思います。傷ついてしまった心を癒すだけの時間ときっかけさえあれば、再び自分の人生の時間を過ごす事が出来るのではないでしょうか。
私は本当に歩みが一つずつで、人や社会と比べて歩むスピードは遅いけれど、ひきこもった私なんか・・・ではなく、ひきこもった私だからこその、一つの人生を持った自分として、自分らしく生きられたらと思います。