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こころのメッセージ


女性と依存症-女性としての回復とは-

北九州ダルクデイケアセンター スタッフ 村田 典子

H26年10月掲載

はじめに

初めまして。私は北九州ダルクのスタッフをしています。7年と少し前、北九州ダルクにつながり、通所1年6か月を経て今の仕事に就きました。
現在、7年のクリーン(薬を使っていない期間)を迎え、いまだ回復途上の薬物依存者として仲間のサポートをしながら生活しています。

ダルクにつながるまで

私がダルクに繋がったのは、平成18年12月13日です。
執行猶予3年の判決後、出所し、まず精神保健福祉センターに行き、そこからダルクを紹介されました。覚せい剤の使用で私が留置されている間に父もダルクのことを調べていました。
ダルクの責任者との面談時、私は通所する気なんてありませんでした。

私の中での優先順位は、

  • まず子供の世話をしながら仕事を探す。
  • 職についたらお金を貯めて実家を出る。
  • 当時付き合っている男性と一緒に住む場所を準備する。
    (彼も捕まっており、出所後、住む場所がないため、頼まれていました。)

でした。

両親からは「もう絶対こんなことはしないで欲しい」、「仕事をして子育てをしていけば、普通に生きていける。」と言われました。だから、子育てをして、仕事をすれば何をしてもいいんだと思っていました。
子育てや仕事などすることたくさんあり、ダルクに行く暇は無いので、「子供の世話をしなければいけません。付き合っている人から頼まれているし、それに応えなくちゃいけません。」と言い、ダルクに行くのをお断りしました。
でも、ダルクの責任者からは「あなたが彼に依存しているんですよ。自分自身のことをしましょう。」と言われました。
それが私の回復のためのスタート地点でした。

ダルクスタッフとして

女性の矯正施設で、これまでの自分の体験について話をさせてもらう(メッセージを届ける)ことがありますが、そこで色々な話を聞かせてもらっています。「母親として子育てをしなければいけないんです…」、「妻として夫の世話、介護、家事があるんです…」、「ダルクに行く暇なんてありません。私は忙しいんです」
私が最初にダルクへ繋がった時と同じ言葉が耳に飛び込んできます。男性の矯正施設でも似たような言葉を聞きますがなんとなくニュアンスが違います。

女性の回復ってなんだろう?
私の中で疑問が出てきました。

特に多いのが「お母さん」の役割をもつ仲間です。

仕事をすれば、住居を変えれば、付き合う人を変えれば回復できるのか?
それは皆やってきた事で、でもここに居る。
じゃあ「お母さん」やっても同じじゃない?

女性には大切な役割があります。それはとても大きな役割です。でも時に、女性としての役割が、自分自身のこと、薬を止めることをしなくてもいいという大義名分になってしまいます。私自身、7年前ダルクで大義名分を振りかざし、「自分自身の薬物問題=生き方の問題」から目を逸らそうと必死でした。

私自身も「お母さん」です。その役割は周囲が本人に対して求めていることが多い様です。
「お母さんなんだからしっかりしなさい」
「お母さんなんだから、子供のために薬をやめなさい」
私も同じことを言われ続けました。
私の母が私にしてくれた事や世間一般のお母さんと同じことをしたいと思っていますが、上手く出来ません。そのことで、随分自分を責めました。

矯正施設の仲間も同じでした。「お母さんなのに薬を使ってしまった」、「お母さんをきちんとしていれば大丈夫」と言われ、周囲の人たちもお母さんの役割をきちんと果たすことを願っています。その期待に応えれば皆優しいし、怒られない。

「お母さん」は役割であって、それを担う人は誰ですか?それは私です。

私を大切に、きちんと生きていけば色々な役割が出来ます。逆に自分自身をきちんとしなければ、どんな役割もできません。

「そうか、まずは私自身をきちんとしなければ。」

最初にダルクへ行った時に言われた「自分自身のことをしましょう」の意味が少しだけわかってきました。そこで、我に返りました。

自分自身ってなんだろう?
これまでの自分自身を振返ると…
誰かに褒めてもらう自分、何でも頑張ってやってる自分、
でも、頑張って頑張って、薬が無いと頑張れなかった自分、
誰かに褒めてもらうために頑張っている自分、
いつも怒られて、ビクビクしながら周囲の顔色を窺っている自分がいました。誰かの期待に応えることだけを自分に課して生きてきました。

依存症の症状の一つではあるのですが、私自身、他人を通してでないと、自分で自分のことがわからなくなるため、ダルクのミーティング、プログラムを通して少しずつ自分自身を確認していきました。

ダルクではみんな正直に話をします。
薬と出会う前から生き辛かったこと、
薬を使いながらでないと生きていけなかったこと、
実は人と関わりたいのに怖くて仕方ないこと、
一般常識、社会生活ができない、わからないこと、

こんなことを話したら馬鹿にされるんじゃないか?怒られるんじゃないか?沢山の不安を仲間たちは黙って、たまに笑って聞いてくれます。恥ずかしい話をして、笑ってもらうと安心します。何もできないビクビクした自分を受け入れてもらいました。ここでは「お母さん」である必要はありませんでした。ありのままの自分で居られました。

シラフになってありのままの自分で居ると少しずつ楽になって、視界が広がります。そうしたら自分がいままでやってきたこと、今自分が何をやっているかがよく見えます。
昨日のことにクヨクヨして、明日のまだ起こっていないことに不安を抱いて、今日のことはまったく考えていませんでした。

一番大切なのは今、自分がシラフでいること。笑っていることだけでした。

今、私は息子と二人で暮らしています。結局、私が息子と暮らせるまで7年かかりました。私にはそれだけの時間が必要でした。

シラフの状態で息子と向き合うのはとても辛いです。すぐ昔の様に顔色を窺ってご機嫌取りをしたり、逆に威圧して言うことを聞かせようとしてしまいます。クタクタに疲れると「薬があれば楽だなぁ」そんな思いが頭をよぎります。その事を仲間に話します。ミーティングに行きます。分かち合ってもらうと薬を使わなくてもよくなります。
今の私はとても楽です。

おわりに~薬物依存症に悩んでいる女性達へ~

優先順位を自分で決めないで、ちょっと立ち止まって仲間と相談してみてください。

早く元気になりたいと焦ってしまいますが、自分で決めると今までと同じ結果にしかなりません。新しいやり方をすれば、今までと違う結果が出てきます。頑張らなくても新しい生き方が出来るようになります。そうしたら、誰かの期待ではなく、自分自身で必要な役割を担うことができます。

一人で薬を止めていくのは無理です。でも仲間とならできます。

一緒に元気になりましょう。

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