福岡大学医学部精神医学教室 原田 康平
H26年8月掲載
大切な人が亡くなるという体験は遺された人々にさまざまなこころの問題を引き起こすことがあり、「死別反応」と呼ばれます。とくに自死の場合は病死や事故死よりもさらに深刻な影響があると言われています。
自死に関する偏見や誤解を心配して「言えない」「知られたくない」と思うことが多いので、一人で抱え込んでしまって孤立した状況になりやすいのです。
自死による影響に加えて、「自分の健康の不安」「借金」「裁判など法律上の問題」「子どもの養育」「親族間の問題」などさまざまな問題を同時に抱える方もおられます。
こころだけでなく、以下のようなからだの変化が起こりえます。
こういったからだやこころの変化は誰にでも起こりうることであり、時間が経つと自然によくなることもあります。
亡くなった人の命日や誕生日、結婚記念日など思い出が深い特別な日が近づくと、気持ちの落ち込みや体調が崩れるなど、亡くなった直後のような反応や変化が出ることがあります。このような反応は大切な人を亡くした方にはよく起こりうる自然な反応であるので、自分を責めたり不安に思ったり、これらの気持ちを無理に抑えたりしなくていいです。
ただ、程度によっては、うつ病、不安障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、アルコール依存症などを発病して専門家によるケアが必要になることがあるので、
① これらの変化が10日以上長引いたり
② 日常生活に支障をきたしたり
③ 死にたい気持ちや自分を傷つけたくなる気持ちで苦しくなる
などの場合には、ひとりで抱え込まずに専門の機関にご相談ください。
こころとからだの変化の後、年月をかけながら大切な人の死を受け入れる過程があります。これを「悲哀の営み」または「喪の作業」といい、4つの段階に分かれます。
大切な人の死は激しい衝撃となるため、直後数週間は、興奮したり、パニックになったり、無力感でいっぱいになったりします。「何かの間違いでは」「死んだことが信じられない」「今にも会えるのではないかと思う」など、大切な人の死を受け入れることをこころが拒否した状態や、「涙も出なかった」など感情が麻痺したような状態になることもあります。
数ヶ月から数年の時をかけて、失った大切な人をこころのなかでなんとか取り戻そうとしたり、ずっと持ち続けようとしたりします。「まだどこかで生きているのでは」など、現実にはあり得ないと知りながら、さまざまな空想をします。また、この時期に怒りや不当感を感じることが多いです。「なぜこんな目にあわなければならないのか」といった不当感に加えて、「〇〇のせいで自殺したのだ」など怒りが他の人に向いて責めたくなったり、「私のせいだ」と自責感・後悔の念にさいなまれたりします。
もはや失った大切な人が永久に戻ってこないという現実を認める段階です。絶望と失意に向き合うため、ひきこもるような気持ちやゆううつで無気力の状態となりやすいです。
苦しい喪の作業を経て、大切な人の死を受け入れあきらめる段階です。失った大切な人からこころが離れ、自由になります。悲しみは残っているけれど、なんとか持ちこたえられるようになります。以前と同じという意味ではなく、苦しい体験を踏まえた上での新しい生き方や人とのつながりにもとづくこころのあり方を見出そうとします。以前よりも自分自身の人生を大切にしたり、他の人への思いやりが深くなります。
この4つの段階を少しずつ進みながら、時には行ったり来たりしながら、それぞれのペースで大切な人の死から回復していきます。同じ家族であっても、回復のペースは異なるため、無理はせず自分のペースを大切にしてください。