産業医科大学精神医学教室 小嶋 秀幹
H16年10月掲載
前回はうつ病の自覚症状についてのお話でしたが、うつ病は、いくつかの行動上の変化からも気付かれます。そこで今回は、うつ病の他覚症状というテーマでお話します。
うつ病の発病は、ストレスと密接な関係があります。個人差はありますが、ストレスが大きくなるとうつ病が出現しやすくなります。まず、他覚的に現れるストレス症状とうつ病の徴候を列記します。
以上のような項目がいくつも当てはまるようでしたらストレスが高い状態、あるいはうつ病の可能性が疑われます。
うつ病の診断は、自覚症状と他覚症状、症状の持続期間を総合してなされるものであり、今回挙げた項目が多数当てはまるからと言って一概にうつ病であると診断されるとは限らないことを付け加えておきます。診断と治療については早期に専門医を受診することをお勧めします。
私が勤める産業医科大学は、働く人々の健康維持を目的に設立された大学であり、神経精神科においては、勤労者の精神的健康(メンタルヘルス)について専門的に取り組んでいます。
近年、企業においてもうつ病は、大きな問題となっており、実際に多くの勤労者がうつ病による休職を経験しています。厚生労働省はこのような現状に対して4年前から事業場におけるメンタルヘルス対策の指針を公表し、企業内でのメンタルヘルスケアを推進しています。その中の1つに「ラインによるケア」があります。
これは管理監督者(上司)が常に部下の健康について見守り、声かけをすることで精神的な病気の発病を予防しようという試みです。多くの企業では、この指針に基づいて管理監督者に対するメンタルヘルス教育が積極的に実施されています。うつ病をはじめとした精神疾患は、本人が自分自身の病気に気付くことができない場合も多く、本人のことをよく知っている周囲の人達(家族、友人、同僚、上司など)の方が、本人より早く精神的不調に気付く場合も多くあります。あなたの周囲に普段と違う様子や元気がない人がいたら、まず声をかけて下さい。本人が、もし本日お話したようなことを訴えられた場合は、メンタルヘルスの専門医受診を勧めて下さい。
ストレス社会の中でうつ病は、誰にでも起こる可能性のある病気です。治療法も日々進歩してきていて、「うつ病は治る病気」という考え方は定着しています。多くの方々がうつ病の自覚症状や他覚症状を理解して、もしこの病気になったら早期に受診していただけるようになればよいと思っています。